Springerie シュプリンゲルレ , Anisbrötli アニスブロートリ
乳白色の生地に繊細なモチーフが浮き出た姿が上品で美しく、ふんわり立ち上るアニスの甘い香りも魅力の焼き菓子シュプリンゲルレ
口に入れると、表面はしっかりと歯ごたえがあるのに、その中はしっとり、ほっくり… さらに生地が解れてくるとアニスシードが溶け出してきて、この種 どうしましょう??? 美しくおすましな印象ですが、どうして、どうして 食感と風味が次々変わる愛嬌のあるクッキーです。
その発祥は14世紀 ドイツ南部のシュワーベン地方: 現在のバーデンウュルテンベルク州の南部(シュトゥットガルトやウルムなどの都市を含む)の修道院で生まれ、次第に中世ドイツで隆盛を誇ったバイエルン州の南西部およびスイス東部とアルザスを含むシュヴァーベェン公国領だった地域に広がったと伝わります。
以来そのシュワーベン地方を含むドイツ南西部では『シュプリンゲルレ』 近隣のオーストリアやスイスでは『アニスブロートリ』と呼ばれ、年間を通して宗教行事やお祭り、祝い事のために焼かれてきましたが、現代ではクリスマスを祝うお菓子として作られることが多くなっています。
白さのゆえんは…
その作り方は、まずたっぷりの砂糖に小麦粉と鹿角塩やベーキングパウダーなどの膨張剤を合わせ、卵も加えてよく混ぜて生地を作ります。そして、その生地を伸ばし、型に押して抜いたら、1~数日置いて乾燥させ、低温でゆっくり焼き上げる。
以上の作業工程で、白く美しい仕上がりのための工夫が2つ 1つは焼き色が付かないよう低温で時間をかけて焼き上げること そしてもう1つは、生地にたっぷり砂糖を使うこと…純白の砂糖あってこそ実現する純白クッキー「シュプリンゲルレ」なのです。
砂糖は中世ヨーロッパで「白い宝石」と呼ばれるほど貴重で高価なものでしたが、1500年代… ポルトガルが植民地としたブラジルにサトウキビを持ち込み、栽培と生産を始め、その後キューバやジャマイカにも産地が広がり、製糖工場が多数作られると、砂糖は比較的手に入りやすい商品に変わり始めます。
1600年代に入るとイギリスの植民地政策によってさらに生産量が確保できるようになり、砂糖の価格は徐々に下がっていきました。こうして16世紀の終わりごろ砂糖をたっぷり使える状況が整うと、修道院ではそれまで以上にお菓子作りが盛んに行われるようになり、こうした中で作られたお菓子の1つが『シュプリンゲルレ』です。
モチーフの変遷
修道院主導で作られたシュプリンゲルレには、聖書の逸話をモチーフにしたレリーフが刻まれ、クリスマスのミサなどで配られると、読み書きのできない庶民とってそれは、まさに“純白の聖書の”でしたから、さぞかし眩しく敬意をもって迎えられたことでしょう。
木型に彫り込まれるモチーフは時代を映し、1700年代はロココ文化を反映して騎士や貴婦人を紋章のように彫り込んだ大きく華やかなモチーフに、1800年代からは身近なモチーフが増えて現代に至っています。型も木製あり、陶器製あり、金属製もと様々工夫されて使われました。
呼称の由来
『シュプリンゲルレ』
その由来は焼かれて倍以上に膨らむ姿にあるというのですが、砂糖と小麦粉と膨張剤、卵からなる生地を型抜きし、1日〜数日おいてから、低温で焼く…その〝焼き〟の工程に注目です。
長時間おかれるうちに生地は発酵が進み、表面は乾燥していますが、内部には砂糖の保水性も手伝って水分が残っています。その水分は焼かれているうちに水蒸気となって生地の外に出ようとする さらに膨張剤は熱せられて気化してガスになる…その結果 生地の中で気泡が多数生まれ、生地はぷっくり膨れて生地の高さは倍以上に膨れ上がる! これが「跳ね上がる」「はねる」を意味する動詞 springen を連想させ、そこに シュワーベン地方特有の語尾に ”le" = レを付ける表現(方言)が加わって、Springerleと呼ばれるように…なった。 他にも「小さなジャンパー」あるいは「小さな騎士」 を意味すという説もあり、いずれにせよ、焼かれている最中の膨れ上がる姿が名前の由来になったようです。
お次は『アニスブロートリ』…
アニスは地中海沿岸を原産地とし、その甘い香りが好まれて、古来ヨーロッパで親しまれているスパイスです。このアニスを敷き詰めたら、その上に型抜きした生地を並べて、長時間乾燥させてから焼くと…生地にはアニスの香りが移り、アニスが生地の底に張り付いたまま焼かれる姿もまたご愛嬌…パウダー状にしたアニスを生地に混ぜ込むこともあり、アニスの香りをまとってこその『アニスブロートリ』というわけです。
色付けしてインテリアに…
古くから卵と顔料を混ぜ作られる絵具:テンペラを使って着色することも盛んに行われました。
現代もクリスマスを前に様々な色を塗りこんで、華やかなオーナメントに仕上げる作業は子供達に大人気!カラフルなクッキーは二つの穴に紐を通してクリスマスツリーにつり下げたり、インテリアとして飾られてクリスマスを華やかに彩ります。
クリスマスマーケットにて…
南ドイツの古都ニュルンベルクのクリスマスマーケットに出店していたシュプリンゲルレの木型を売る屋台には、木彫り、セラミック、ローラー式の型が並べられ、若い女性が熱心に型を選んで、お店の方に質問していました。
生地を平らに広げ、転がして型付けするローラータイプ ↓
こちらはニュルンベルクのクリスマスマーケットで買い求めた木製とセラミックの型です。フックがついて、インテリアとしても活躍してくれる優れもの