ケルトの歴史とハロウィン2 「サーウィン」が「ハロウズイブ」そして「ハロウィン」へ
古代ケルトの人々は1年を夏と冬2つの季節に分けて捉えており、夏が終わり冬を迎える11月1日は新年 その前日10月31日は、秋の実りを感謝し、家族のもとへ帰ってくるご先祖の霊を迎えるお祭り「サウィン」を行っていました。しかしあの世とこの世がつながるこの時期は、歓迎しない悪霊や魔女たちもやってくるため、その対策も怠らぬように過ごしたのでした…。 5世紀半ば そんなアイルランドにキリスト教が伝えられると、従来の信仰とキリスト教は融合
アイルランド独特のアイリッシュカトリックが確立されてゆきます。
そして835年 ローマ教皇グレゴリウス3世によって11月1日が全ての聖人と殉教者を記念し追悼する『All Hallows’ Day 諸聖人の日または万聖節』 と定められると、「サウィン」は「諸聖人の日 All Hallows’ Day」と融合して、「ハロウズ・イブ Hallow’s Eveと呼ばれて継承されてゆくのです。
こうしてヨーロッパの一地域 アイルランドで継承されていた『ハロウズ・イブ』の行事は19世紀に大勢のアイルランド人が北アメリカへと移住したことがきっかけとなって、広くアメリカで行われるようになっていきます。そのきっかけとなったのは…アイルランドを襲った大惨事でした。
ジャガイモの伝播とジャガイモ飢饉
16世紀にアイルランドにジャガイモがもち込まれると、それは貧しい人々の重要な食料源となりました。収穫量が多く、保存性も良い 経済的であり、栄養もある。それだけではありません。栽培も収穫後の取り扱いも、小麦と比べてとても簡単だったのです。
ジャガイモは、アイルランドで一気に普及しました。
アイルランドは17世紀以来イングランドの植民地となっていましたが、1801年からは併合され、政治及び立法上だけでなく、経済的な独立も失っていました。そうして小麦や家畜の大部分はイギリスへ強制輸出させられる…
そうした状況下でジャガイモは「貧者のパン」と呼ばれてアイルランド人たちの命を繋いでいたのです。
1845年 ジャガイモ枯れ症ないし青枯病(あおがれびょう)と呼ばれる伝染病が発生し蔓延すると、葉が黄変した時にはすでに土中のジャガイモはおおかた真菌により黒ずみ、腐敗臭を発し、全滅してしまいました。原因がわからず、手立てもなく、収穫がほとんどなくなったまま、種芋まで食べ尽くし、100万人が餓死する大惨事となりました。
それでも本国イギリス政府からの援助も得られない中、150万人が移民となってアメリカに渡ったのです。
新天地
爪に火を灯すような暮らしの中で移民たちはマンハッタン島にセントパトリック大聖堂を建て、ミサに集まっては結束を固め、アイリッシュカトリックの輪を広げていったといいます。
そしてアメリカでも伝統に従って10月31日にはサウィンを源流にもつ『Hallow’s Eveハロウズ・イブ』を祝いました。
今やハロウィンには欠かせない「カボチャ」はアメリカ大陸原産の野菜です。アイルランド系移民がアメリカでカボチャと出会い、 “ジャック・オ・ランタン”作りに取り入れるようになると少しずつ認知され、収穫祭に添える彩として取り入れられたようです。
呼び名も “Hallow’s Eve(ハロウズ・イブ)が訛って「ハロウィン(Halloween)」に。
そんな経過の中、悪霊の目を眩ますための仮装や、子供たちが悪霊を演じて唱えた「Treat me or I’ll trick you.」からは本来の宗教的な意味合いは失われていきました。
そうしてハロウィンの夜に仮装した子どもたちが近所の家々を訪ね、「Trick or Treat お菓子をくれなきゃいたずらするよ!」と声を掛けると、大人たちが「Happy Halloween」と呼応してチョコレートやキャンディーなどのお菓子をあげるという明るく華やかな行事になって、世界中に広がっていく…
日本での加熱ぶりは、バレンタインを越して、クリスマスに次ぐイベントになる勢い
そしてご本家のアイルランドでも、1970年代までは昔ながらのハロウィーンの過ごし方が主流だったものの、80年代頃からアメリカから逆輸入された仮装行列が始まったということです。
食が繋ぐアイリッシュの輪
アイルランドで暮らすケルトの人々が、日本人がお盆や新嘗祭を祝うように行っていたサウィンが2000年余りの時を経て、アメリカ大陸や日本でも祝われる華やかなイベントになって、さらにその賑わいが年々増していることには驚かされますね。サウィンが内にもっていたパワーに圧倒される感さえ抱きます。
とはいえ、その時期人々が用意し、食卓に並べてきたメニューは淡々と変わらず、季節の訪れや、祖先や故郷を想わせてくれるソウルフードとして、アイルランドで暮らす人々のみならず、移民によって世界に広がったアイリッシュの人々を繋いでいます。その打表的なメニューをご紹介しましょう。
コルカノン Colcannon
マッシュポテトにバターや牛乳を加えて練り、クリーミーにしたら、ケール(またはキャベツ)を加えて作るアイルランドの伝統料理です。
日常的に食するのみならず、ハロウィンや聖パトリックの祝日など特別な日にも食卓にのぼり、ハロウィンでは、指輪やボタンなどを忍ばせる占いで、食卓を盛り上げます。さらにハロウィン・ナイトにはこの世に戻った祖先の霊や妖精へのお供え物として、ベッドに入る前 真ん中にバターをたっぷり添えたコルカノンを戸口や窓辺に出しておくことも忘れませんでした。
コルカノンは、cal ceannannというゲール語に由来する名前で、「白い頭のキャベツ」という意味だそう。見た目がそう見えるからなのか?ケールやキャベツを使うからなのか?両方なのか?? 真相は謎なのですが、cal ceannannは、ニンニク、玉ねぎ、ネギを表すcainneninという言葉から派生した言葉だということから、元々は、これらの野菜を混ぜ合わせたものだったのかもしれません。
アイルランドの各家庭で何世紀も栽培されてきたケールやキャベツと、1589年に伝来したジャガイモを組み合わされて誕生しました。昔から身近な存在だったケールやキャベツと、ニューフェイスのジャガイモを一緒に使うレシピが生まれるのにはさほど時間は要さなかったでしょうから、1600~1700年代には同様の料理が存在していたと推察されます。
サウィンや万聖節には肉は食べない伝統があり、コルカノンはハロウィンの日の食卓のメインディシュ的存在として作り継がれてきています。
コルカノンレシピ
《材料》
ジャガイモ 大3個
ケール 3枚 またはキャベツの外葉(緑色で肉厚な外側の葉)
牛乳 200ml 常温に戻しておきます。
バター 20g
塩・胡椒 お好みで
《作り方》
① 洗ったジャガイモを皮付きのまま鍋に入れ、被る程度の水と塩少々を加えて中火にかけます。沸騰したら弱火にして竹串がスッと入るまで茹でましょう。
② 茹で上がったジャガイモの皮を剥き、塊が無くなるまで潰します。
③ 牛乳半量を入れて混ぜ、 ゆるさ加減を見ながら滑らかになるまで残りの牛乳を加えます。
バターも入れて仕上げます。
④ ケールを1分程茹で、水気をよく絞って、小さめのざく切りにします。
⑤ ③にケールを加え、塩胡椒して、優しく混ぜ合わせたら完成です。
バーンブラック Barmbrack、ティーブラック Teabarck
その名前から真っ黒焦げのケーキ?なんて想像しそうなこのお菓子はアイルランドを代表するティーフーズ とりわけハロウィンのお祝いに欠かせない伝統菓子です。
Barmbrack の「barm」はエールイースト(ビール酵母)を表すbairm あるいはberma から。brackは「ぽつぽつと斑点のある」という意味を持つ言葉で、生地にたっぷりレーズンなどのドライフルーツが散っている姿から。
よって、バーンブラックは「エールビールの酵母を使った斑点のあるパン」と言う訳です。
現代ではお店や家庭により、さまざまなバリエーションのものが焼かれていますが、大きく分けるとイーストで膨らませるパンタイプと、ベーキングパウダーや重曹を膨張剤に使うケーキタイプ こちらは『ティーブラック』と呼ばれます。
どちらもたっぷりのドライフルーツが入るのは共通ですが、イーストを使う方が伝統的で、ケーキタイプは19世紀に重曹やベーキングパウダーが開発されて作られるようになりました。
どちらも材料にバターを使わないため、スライスしてバターを塗るのが伝統的な食し方。 たっぷり紅茶を吸い込んだレーズンとスパイスが効いてそのままでも十分に美味しいですょ。
ミルクティーとあわせて召し上がれ…。
バーンブラック レシピ
《材料》パウンドケーキ型1台分
薄力粉 80g
強力粉 80g
ベーキングパウダー 小1
紅茶 1カップ
レーズン 50g
サルタナレーズン 50g
粗製糖 80g
卵 1個
はちみつ 適宜
シナモンパウダー 小1/2
ナツメグ 小1/4
コーヒーシュガー or ザラメ糖 適宜
《作り方》
① ボウルにレーズンを入れ、濃く淹れた紅茶を注いで混ぜ合わせ、そのまま一晩おいて香りを移します。 しわくちゃだったレーズンがふっくら…写真「左」は半日、「右」は1日漬けたものです。
半日は漬け込んで、レーズンが紅茶をたっぷり含んでから使いましょう。
↓(左)半日紅茶に漬けておいたレーズン(右)1日紅茶に漬けておいたレーズン
② ①に砂糖を加え、よく溶きほぐした卵も入れて混ぜ合わせます。
③ ②に薄力粉、強力粉、ベーキングパウダー、スパイス類も加え、ムラがなくなるまでさっくり混ぜ合わせます。
④ 型に注ぎ入れ、180℃に予熱したオーブンで約40分焼き、竹串を刺して、生地がついてこなければ、焼き上がりです。生地がついてくるようなら、160℃に落として、さらに10分焼きましょう。焼き上がったら熱いうちにはちみつを塗って仕上げます。
*ザラメ糖をふる場合は、残り10分のところでケーキを取り出し、温めたはちみつを塗って、コーヒーシュガーかザラメ糖をふりかけ、再びオーブンに戻します。…写真奥のケーキにザラメ糖をふっています。